最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)82号 判決
論旨第一点は、上告人が昭和二十六年七月二十六日丸守村議会を開会しなかつたのは、七月十八日自己に対する議会の不信任決議の真否を確めようとして問い尋ねていた為であつて、決して上告人の恣意我儘によるものでなく、若し議長が議会を開会しなかつたならば、「議長が事故あるとき」に該当する場合であるから、他の議員が副議長又は仮議長により当日の会議を開くべきであつたに拘らず、これをしなかつたのは、他の議員が憲法一五条二項の公務員として全体の奉仕者であるという責務の遂行を忘れたものであつて、これらの事情を考慮しなかつた原判決には、憲法一五条二項を看過し審理を尽さなかつた違法があると主張するが、原判決が適法に認定したところによれば、上告人は多数議員の開会要求があつたに拘らず開会しないので、副議長が開会を宣しようとしたところ、上告人が開会を阻止し、遂に流会に至らしめたというのであるから、論旨は右原審の認定に副わない事実を前提とする主張であつて採用できない。また同第一点はなお、丸守村議会会議規則六条は議長の権限を定めたもので義務を定めたものでないから、かかる事情の下において上告人が村会の開会を宣しなかつたことは何ら同条に違反するものではないというが、同条が議長の権限を定めたものであるとしても、その権限を適正に行使すべきことは議長の職責であつて、原審が、その適法に認定した上記の事実に基き、上告人の行為を同条違反と判断したことは何ら違法でなく所論は理由がない。更に同第一点は、原判決の理由そごもいうが、その理由のないことは、後記第五点に対する判断において述べるところによつて明らかである。
同第二点は違憲をいうが、原判決の理由中所論引用の箇所は、議長がその職責を尽さない事実の経過的事情を述べているのであり、論旨は結局原審の事実認定を非難するに帰し、上告適法の理由とならない。
同第三点は、仮議場を選任した旨の記載が乙第四号証の一(昭和二六年七月三一日丸守村議会臨時会会議録)に存在しないことを前提として判例違反をいうが、右会議録には、七番議員から「現在年長者により仮議長を選出したのであるが、現在の仮議長をもつて議事を進行したい」と発言し、一同これに賛成した旨の記載があり(記録五九丁)、仮議長の選任のあつたことは、記録上認められるのであつて、所論は前提を欠き上告適法の理由とならない。
同第四点は訴訟法違反をいうが、本件除名議決の議案自体は議長が提出したものではなく、議員古河近衛外四名が提案し、議員佐藤長生外七名が賛成して提出されたものであることは記録上明らかであるから(記録二五丁)、原判決には所論のような違法はない。
同第五点は、会期中の行為でない上告人の行為は議会内における議員の行動でないから、これに懲罰を科したことは違法であるというが、地方自治法一三四条の議員の懲罰は会議体としての議会内の秩序を保持することを目的とし、地方自治法又は会議規則に違反した議員にこれを科するものであつて、本件においては、議会が流会となつた七月二十六日における上告人の議会運営に関する行動につき、その後はじめて開かれた七月三十一日召集の議会が議会内の秩序を保持する為に必要であるとしてこれに懲罰を科したものである以上このような上告人の行為は、必ずしも会期に拘りなく、懲罰の対象となしうるものと解すべきであるのみならず、懲罰の対象たる行為のなされた後余日を置き、その間懲罰を問題となし得たに拘らず、これをしないでおいて、その後に至つて時期に遅れて問題としたものであるならば格別、本件においては、右上告人の行為により流会となつた後はじめて開かれた議会の会議において取り上げたものであるから、被上告人議会が七月三十一日の会議において上告人の上記の行為を懲罰の対象としたことは何ら違法ではなく、従つて原判決には所論のような違法はない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 入江俊郎 真野毅 斎藤悠輔 岩松三郎)
上告代理人田村政芳の上告理由
原判決は被上告人議会の議員で且つ議長であつた、上告人が昭和二十六年七月二十六日の臨時議会招集日において、議員の開会要求があつたが、同月十八日の臨時議会で、議長不信任を決議したかのことを聞知したので、その事実の真否を確かめた上議長としての職務を行うべきかどうかを決するために、議員に対してその真否を問い尋ねている際、副議長福島昇が開会を宣しようとしたので、上告人が、議長には何等の事故もないのであるからとて、それを阻止し重ねて他の議員に対し不信任決議の真否を問い尋ねている間に、昼食等の関係から帰宅する議員もあり、その後参集議員もまばらになつた等の事情から遂に議会の開会を見ず流会に終つたか、右上告人が開会を宣しなかつた行動は、議員の審議権の妨害であるとして同月三十一日の臨時村議会で被上告人議会が上告人の議員たることを除名する旨の懲罰をするに至つた事実を認めた上、被上告人議会が上告人を除名する旨の決議をしたのは違法でないとして、上告人の除名決議取消の請求を認容した一審判決を取消した上、上告人の請求を棄却されたのでありますが、原判決には次のような数々の違法があるものと信じます。即ち、
第一点 原判決は、その理由において「以上の事実関係に徴すれば被控訴人の昭和二十六年七月二十六日の行動は、正に議長の職責に関する地方自治法第百四条の法意に背き同法第百十四条の規定の趣旨を無視し且つ丸守村議会々議規則第六条に違反するものといわなければならない」と断じているけれども、これは明らかに憲法第十五条二項の規定を無視した審理不尽、法令違反の違法があると信じます。何となれば、地方公共団体の議員は公務員であるから、憲法第十五条第二項の規定に従つて団体住民全体の奉仕者であつて、一部地方公共団体理事者等の奉仕者ではないのであるから、自己のため或は理事者のため又は党利党略のために行動することは許さるべきではなく、常に住民全体の奉仕者として誠実に議員としての責務を遂行すべきであるに拘わらず本件昭和二十六年七月二十六日における被上告人議会の多数議員の行動を見るに、当日定数の半数以上の議員が参集していて議長に対して開会を要求したが議長が開会をしなかつたならばそれは地方自治法第一〇六条の「議長が事故あるとき」に該当する場合であるから、同法第百十四条、同法第百六条によつて副議長が、若し副議長も亦事故があつたならば仮議長を選挙して議長の職務を行はせて、当日の会議を開くべきが全体の奉仕者としての被上告人議会議員の執るべき態度でなければならない、然るに上告人が七月十八日に自己に対する不信任決議があつた事実を確知しないので、その真否を確かめ、果して不信任決議があつたとすれば、仮令それが法律上の効果はないにしても議長としての職務を遠慮すべきであるとの念慮から、参集せる議員に対してその事実の有無を確かめんとしたが、参集せる議員がいづれも住民全体の奉仕者であることを忘れ上告人に協力して円満なる開議に移行できるように努めんとせず各々口を緘して語り聞かせぬため、徒らに時間を費し遂に昼食時となれるため、議員が三々伍々帰宅し、その後は議員の参集も十分でなく遂に流会に終つたことは一審及び原審の証人橋本庄次郎の証言及び上告人本人尋問の結果と一審証人穂積藤栄、西館与祖右ヱ門の証言によつて明らかなところであり、決して上告人の恣意我儘から開会しなかつたものではないのであるから、地方自治法第百四条の法意に背き同法第百十四条の規定の趣旨を無視した行動として責むべきではないと思料致します、そして数歩を譲り、若しそれが上告人に責むべきことであつたとしても、被上告人議会議員の多数が全体の奉仕者たる責務に忠実であつたならば前記地方自治法第百六条によつて与えられた副議長をして又は仮議長を選挙して議長の職務を行はせることによつて、当日の会議を開き得べかりしに拘わらず敢てその挙に出でず只に上告人の非を責めることのみを知つて、自己が住民全体の奉仕者たる責務を忘れた如きは却て議員の職務を怠り議会の体面を汚し議会秩序を紊したものでその態度こそまさに懲罰に値するものであるのに、原審が斯かる事情に思い及ぼすことなく前示の如き認定をしたことは、憲法第十五条第二項を看過し審理を尽さなかつた違法があるものと思料致します。
更に右は法令の解釈を誤つたものであります、即ち丸守村議会々議規則第六条には「村議会が成立したときは議長が開会を宣する」と規定してあるが「……開会を宣すべし」とは規定していないのであつて、議会の開会は議長の権限で義務ではないから、前記のような事情の下に開会を宣しなかつたとしても決して丸守村議会々議規則第六条の違反と断ずべきではない。然るに原審が同法条違反と断じたことは法律規則の解釈を誤つたものと信じます。
更にまた原判決は理由齟齬の違法があります。即ち原判決は、その理由中(五)において「昭和二十六年七月二十六日における被控訴人の行動は会期中の行為ではないが」と断じているが、果して会期中の行動でないならば、会期外に議会の行動はあり得ないのであるから、会期外において、たまたま議員であるものが集合して議長であるものに開会を要求したとしても、それは単なる一つの事実に過ぎないので、固より開会の宣言をなすべきでもないことは看易い道理である、然るに七月二十六日の議長であつた上告人の行動を目して議会外の行動と断じながら地方自治法第百四条の法意に背き同法第百十四条の規定の趣旨を無視し且つ丸守村議会々議規則第六条違反であると断じたことは明らかに判決理由に齟齬あるものというべきであります。
第二点 原判決は、その理由中(二)において「不信任決議の効力について、直接法律上規定がないことは、被控訴代理人主張のとおりであるが、議会制度の本質が前記説明のとおりである以上被控訴人が多数議員の意思表示である不信任議決を無視し、何等反省の色なくして前示のような行動に出たことは、失当といわざるを得ない」と説示しているが、被控訴代理人は「不信任の決議の効力について、直接法律上の規定がない」と主張した事実はなく、被控訴代理人は一審以来「議長不信任決議は法律上の効力がない」主張していることは一件記録に徴して明らかなところであるが、原審の如く、多数議員の意思表示であるからその不信任の意思表示に従わなければならないと断ずることは道義上は兎にかくとして、法律上効力なきものでも多数者の意思表示には服従せよというもので、全く独断そのものといわねばならない、斯くの如きは、法律上の効力の無いものであつても、多数者の意思表示には従はねばならぬと断ずるものにひとしい暴論であつて、それは憲法の保障する個人の自由と基本的人権を無視する判決であつて、憲法違反であると思料します。
第三点 原判決は、その理由中(三)において、「年長者議員国分長太をして臨時議長の職務を行わせ、七番議員の発議により、国分長太を仮議長に選任し、同議長の下に本件除名の審議をしたことが認められる。尤も同日の会議録(乙第四号証の一)には、六番「議長が退場したので年長者二番議員国分長太を仮議長にしたい、」云々、七番「現在年長者により仮議長を選任したのであるが現在の仮議長を以て議事を進行したい、」と記載せられてあるが、同会議録を通読し、前記証人国分長太の証言控訴人議会代表者古河近衛の供述を併せ考えるときは、右記載は結局前記認定の趣旨であることが認められるので、この点に関する被控訴人の主張も理由がない」と説示しているけれども、これは甚だしい自由心証主義の逸脱であると思料致します。何となれば、村議会の議事録は、公文書であるから、偽造又は変造であるとの主張があり、それが裁判所によつて認められた場合は格別であるが、そうでなく、成立について当事者間にも争いがなく、裁判所もそれが偽造変造文書と認めない場合はその議事録に記載されてある事実をもつて真正の事実と認めるのが証拠法上の原則であることは大審院判例の示すところ(明治二十七年四月二十一日判決)であります。故に本件において、乙第四号証の一の議事録の記録の記載の文言では、法が要求しているように、臨時に議長の職務を行う年長者議員国分長太の下で仮議長を選任する手続を履んだことの記載も無く、又年長の議長職務代行者である国分長太に委任して仮議長を決定した記載も無いのであるから、斯かる法定の手続は履まなかつたものと認定しなければならないのが採証の法則であるのに拘わらず、原判決が国分長太の手続上の欠陥を補うような証言や上告人と正反対の立場にある被上告人議会代表者古河近衛の証言を採つて公文書に記載されてない事実をもあるが如き認定をしたことは全く原裁判官の独断で自由心証主義の逸脱であり大審院判例違反であると信じます。
第四点 原判決は、その理由(四)において、「前示乙第四号証の一、二の記載、原審証人吉田安寅、当審証人佐藤新之介の各証言によれば右七月三十一日の臨時会において、被控訴人の除名に関する議案を審議するに当り、各議員に誤つて除名理由書のみを配付したので十五番議員から「理由書は議案でないから審議する必要がない、」との発言があつたので、議長は一旦休議し、再開後更めて、提案者議員古河近衛外四名、賛成者議員佐藤長生外七名の「丸守村議員橋本富芳除名の件」と題する議案に除名理由書(乙第四号証の二)を添付して提出したもので、甲第一号証の二を議案として提案したものでないことが認められるので、被控訴人の同主張も採用しない」として上告人の主張を排斥したが、地方自治法第百十二条第一項には「普通地方公共団体の議会の議員は議会の議決すべき事件につき、議会に議案を提出することができる云々」と規定してあつて、議長とないから、議長に議案提出権がないことは行政実例(地方自治関係実例判例集一四八頁地方自治庁回答)でも明示するところで、議員が発案する場合には議員名(多数の場合は連名)をもつて提出すべきで、議長名を用うべきでなく、
(1) 議長何某外議員何某、何某、
(2) ○○委員長何某、
(3) 議員何某、何某代表議員何某、
とした如きものは、いづれも適法でないことは行政実例の示すところであります。そして原判決の引用した「丸守村議会議員橋本富芳除名の件」なる文書には、議案としての番号も無く、議案としての形式も具えてないのに、成立に争いのない甲第一号証の二の「議案第一号」には明らかに「昭和二十六年七月三十一日提出、丸守村議会副議長国分長太」と記載されてあつて議案の形式を具えてあり、「丸守村議会議員橋本富芳除名の件」と題する書面(甲第一号証の三)及び「除名理由書」(甲第一号証の四)(乙第四号証の二)は右「議案第一号」の附属書類として添付したに過ぎぬものと見るべきことは文書編綴の順序形体から見ても当然であるのに此の現実に存在する成立に争いのない甲第一号証の二を判断の資料として看過し且つ文書の編綴の順序形式を顧みることなく、証人の証言のみに依つて議案の形式を具えない文書を議案なりと断じたことは自由心証主義の逸脱であり、又判決に理由を附さぬものであり、又理由不備の違法があるものと信じます。
第五点 原判決は、その理由(五)において、「本件除名の事由たる昭和二十六年七月二十六日における被控訴人の行動は、会期中の行為ではないが、議会の運営に直接重大な影響を及ぼしたものであるからして、右被控訴人の行動を対象として、その後に始めて開かれた会議において、控訴人議会が被控訴人に懲罰を科したことは、違法といえない」と説示しているが、これは全く被上告人の主張を採用せんがための牽強附会の独論というべきである。何となれば、上告人が昭和二十六年七月二十六日に議会の開会をしなかつたことが、会期中になされた行動でないとすれば、その開会しなかつたことは寧ろ当然のことではなからうか、会期中においてこそ議長は開会を宣すべくまた宣すべき職務こそあれ、会期外においてはそのような職権も職務もないのであるから、会期外において開会を宣しなかつたことは、決して議会の運営に直接重大な影響を及ぼしたものということはできないからである。殊に地方自治法第百三十四条は「普通地方公共団体の議会は、この法律及び会議規則に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。懲罰に関し必要なる事項は会議規則中にこれを定めなければならない」と規定しており、その懲罰の目的として地方自治法及び会議規則に違反した議員を対象としているところに鑑みれば、この懲罰規定は専ら議員の議会内における行動、及び議会内の行動と同一に視るべき行動、例えば議会の秘密会の議事を外部に漏洩した如き行動に対して科することを目的としたもので、議会外における議員の行動について責任を問うことは許されないものと解すべきことは、会議規則が議会内の秩序を保持するに必要な事項を規定する法の精神であり、これは下級裁判所の広く判示するところ(東京高等裁判所昭和二十四年(ネ)第一四号、同年二月十九日判決等)及び学説(田中二郎氏自治研究第二六巻第一二号行政判例研究、前掲地方自治関係実例判例集二〇四頁自治庁行政課長回答)の一致するところであります。然るに原判決が開会を宣しなかつた行動を議会外の行動と断じながら、これを懲罰の対象としたことは法令の解釈を誤つた違法があると信じます。
以上の次第でありまして原判決は破毀せらるべきものと思料致します。